夫との熟年離婚を決意したらまずなすべきこと

熟年離婚

よくこんなご相談を受けます。

「夫からバカにされ、召使いのようにされて何十年も耐えてきた、今度夫が退職して、家でゆっくりしたいという、もうこれ以上、一日中奴隷にされるのはたまらない、何とか離婚できないか」

「夫も退職するし、子供も手を離れたので、自分の好きな事をしたい、ずっと思っていた趣味の習い事をしたいと言ったら、俺の両親の介護があるだろう、そんな暇がどこにあると言われてしまった。夫は私のことを介護の担当者としかみていない、さんざん夫の面倒を見てきたのに、今度は夫の親の介護をしろという、もう離婚したい」

「ずっと夫の暴力と暴言に耐えてきたが、子供達も結婚して出て行くという、そうなったら、もう二人きりになってしまう、そんな生活は耐えられない、離婚したい」

いずれも、婚姻後かなりな年数を経過してから、離婚を決断しているケースで、世間では「熟年離婚」とよばれている事案の典型例です。

たいていは夫の退職などがきっかけで、このままではいけないと決断がつくようですが、過ごしてしまった年月が長いだけに、ほどいていかなければならない結び目も多く、ややこしい問題が山積しています。

また、後述しますが、妻がどれほど長年悩み抜いてこの結論に達しようと、たいてい夫側は口をそろえて「寝耳に水」と言います。まあ、このギャップがあるからこそ離婚になるとも言えます。

とにかく、自分の人生をやり直すには、意を決して、あきらめず、前に進むしかありません。そのために知っておくべきこと、なすべき事をお話しします。

1 熟年離婚とは何か

以前テレビドラマで取り上げられてから、急に認知されてきたこの「熟年離婚」という言葉ですが、別に法的にあるいは制度的に定義があるわけではありません。

だいたい夫の退職を機におこる夫婦の離婚劇であり、おおむね婚姻後20年以上を経過してからの夫婦の離婚をさすように使われていると思います。

2 熟年離婚を決意する妻達

(1) 一般的な増加傾向

この熟年離婚、私の記憶するところでは、平成19年に年金分割の制度が始まったころから、特に目立つようになってきたと思います。夫の退職を機に問題が表面化するケースが多いことからわかるように、サラリーマン夫と、専業主婦、と言う分類が多かったように思います。

その方達の長年の鬱屈した悩みに、年金分割制度の実現が背中を押したということです。

もともと年金分割制度がサラリーマン夫の主婦(特に専業主婦)の権利を守る制度であることから、当然と言えば当然ですが、近年はますます増加傾向にあるようです。

では、なぜ妻達は熟年離婚を選択するのでしょうか。もちろん、理由はいろいろです。しかし、問題なのは、熟年離婚というのは離婚の問題も熟成しているということです。

原因は昨日や今日始まったものではありません

離婚を決断したのは今であっても、「いつから離婚したいと思いましたか」と言う問いには、結婚後しばらくして、というように、比較的結婚の当初から、もうダメだと思ってきたという方達が多いことも共通しています。

(2)熟年離婚を妻達が選択する具体的な理由

  1. 夫の退職
  2. これはほぼ、ほとんどに共通していますが、これだけが理由だと、サラリーマンの夫婦は全員退職時に離婚になってしまいます。そうではなくて、これは「引き金」だという事に注意してください。

    いろいろな理由で、もう夫婦としてはやっていられない。それでも、7時出勤、帰りは終電、土日は接待ゴルフ、というような夫なら、お金を運んでくる同居人だと思えばいい、というような割り切りをしていたが、今度は退職してずっと家にいるという、そんな生活は地獄であり、耐えられない、となるわけです。

  3. 夫の暴言・暴力
  4. これも相当多い原因の1つです。以前、テレビでモラルハラスメントについての解説を求められたときに、私は、「日本の男性なんて、ほぼほぼこれですよ」と言ってしまい、物議を醸してしまいましたが、今でもこれはそんなに間違っていないと思っています。

    妻は夫の奴隷ではありません。でも、あれこれ命じては感謝もせず、ちょっと文句をいうと、「誰に食べさせてもらっている」と罵倒が返ってくる、これでは、パートナーとしての信頼も愛情も生まれようがありません。

  5. 夫の生活無能力
  6. 夫は仕事人間で、家では縦のモノを横にすることもしない。もちろん、家事など一切やったことはない。これが退職してずっと家にいるかと思うと、暗澹たる思いになる、私は24時間お世話をする羽目になることにきまってしまう、そんな人生は耐えられない。そういう事をおっしゃる方はたくさんいます。

  7. 夫の親との確執
  8. これも非常に多い理由の1つです。ただ、熟年になってくると、嫁姑のいさかいというよりは、夫の親の介護について頼りにされるのはたまらない、という方が理由になっているように思います。

  9. その他
  10. その他、性格が合わない、夫が家庭を顧みない、お互い口をきかない、コミュニケーションがとれない、などなど、離婚で言われる原因はもちろん、熟年離婚でも当然あります。

3 熟年離婚の闇が語るもの

熟年離婚では、離婚理由も「熟成」してしまっている、と既に述べました。

よく「長年連れ添った夫と何でいまさら」と言う人がいますが、私は相談を受けるといつも思うのは「そんな状況で、なぜ、長年連れ添っちゃったの?」という疑問です。

新婚旅行から帰って離婚となる「成田離婚」も、あまりと言えばあまりな離婚ですが、それでも、まだお互い傷は浅いし、年も若い、築いたモノも少ないので、まだ取り返しが付きます。

しかし、熟年離婚は、離婚にいたる原因はとっくの昔から存在し、もうお互いに口も聞かなくなり、長年仮面を装い、割り切って暮らしてきたが、退職を機会にこれ以上暮らすのは勘弁ということで離婚になるわけですから、相当闇が深いのです。

失った時間はもとに戻りません。冷め切った夫婦関係の元で成長した子供達がどんな家庭を作るのか、薄ら寒い気もします。

妻達は、よく、「私さえ我慢すればと思ってきた」と口にします。確かに、その空しい生活の実態をきくと、よく我慢してきたとびっくりします。ただ、我慢したことで何かいいことは本当にあったのでしょうか

つらい練習を我慢して耐えて、オリンピックで金メダル、というのはいい話ですが、何十年も耐え続けて、空しい婚姻生活を継続した、となると、それは闇でしかありません。その闇に気づかせてくれた夫の退職というイベントに、今となっては感謝するしか無いと思います。

4 熟年離婚の先にあるもの

勇気を出して決断したのなら、その先にある、新しい人生に思いを馳せるべきです。人はいつでも、いくつになっても、何度でも人生をやり直すことはできます。

やり直せないと思えば終わりですが、やり直せると思えばできないことなどありません。80才90才の元気な方達がたくさんいるこの時代、これからの人生の長さを考えて、人生の折り返しのスタートを切るべきなのです。

5 熟年離婚を決断したらなすべきこと

さて、熟年離婚をして、新しい人生のスタートを切ろうと思ったら、考え、実行すべきことがいくつかあります。

1. 離婚原因の不明確さの克服

先にも述べましたが、熟年離婚の不幸の1つに、離婚理由が明確でないということがあります。浮気とか、暴力とか、わかりやすい破綻原因があれば、むしろとっくに別れているのでしょうが、熟年離婚まで引きずった離婚原因は、

「なんと無く性格があわない」「夫婦でいたくない」「一緒にいてもおもしろくない」「向かい合ったことが無い」「悪いところは無いが、この人の妻のままで死にたくはない」

などなど、何となく分かるのですが、本人も「なんとなく」しか説明できないもどかしさがつきまといます

こうなってくると、合意で離婚ができなかった場合、婚姻関係が破綻したという事実を裁判所に認定してもらうしか無くなります。ただ、見た目からは、何十年も特に変わらない生活をしているし、本人にきいても、「何となく合わない」などというように、うまく説明できないとなると、裁判所も手の出しようがなくなってしまいます。

これを打開するには、ただ1つ。「もうこの夫婦は元に戻るのは困難だろう」と裁判所が安心して離婚を宣言してくれるくらいの、よっぽどの別居年数を稼ぐしかありません。

年をとって、何で家をでなくちゃならないの?と不満の答えをする方がたくさんいますが、そこは財産分与でいずれ清算できます。

もちろん、お金に換金するのではなく、どうしても「この家」がほしいというのであれば、方法を考えるしかありませんが、それと人生の本当の幸せを天秤にかけるほどの「家」ってあるのでしょうか。

東日本大震災、先日の熊本の地震、私はこの国に生きている限り、家は「不動産」ではなく「動産」なのじゃないかと思えてきています。執着するのであれば、不確定な家という入れ物より、中に入っている人間の幸せを考えた方がいいと思います。

具体的な別居についての注意事項は、このシリーズMY弁護士の「別居」についての巻をご参照ください。

2. 子供の理解、あるいは無理解への対策

理解、あるいは無理解、と書きましたが、現象的には実は一緒です。子供は親の事を本当によく見ています。ですから、婚姻関係がとっくに破綻し、形骸化した関係を引きずっているだけの夫婦だということはよく分かっています。

そのため、「お母さん、僕らはもう大丈夫だから、自分の好きな人生を生きなよ」と理解をして、背中を押してくれる子供もいますが、反対に、「何をいまさらバカな事をいう、今までだってずっとそれできたじゃないか、何が不満なんだ」と、反対する子供もいます。

不思議な事に共通しているのは、夫婦の仲が悪いという事は知っているということです。

前者の子供は、そのことをいけないこと、と分かっていますが、後者の子供は、それのどこがわるい、今更…。と開き直っています。

先に述べた熟年離婚の闇は、放っておくとこのように子供にまで伝染して広がっていくのです。もし子供の心にまで闇が広がっていたら対策はたった1つ。何とか離婚を成功させ、新しい人生を歩み、生き生きと幸せな姿を子供に見せることです。それしか、子供にまで広がった闇を祓う方法はありません。

3. 離婚が確定するまでの間の生活の維持

熟年離婚は、退職を機に沸騰する事が多いのですが、難しい問題があります。退職金の分割は財産分与の話として離婚時の財産の清算となりますから、離婚という出口が見えてこないと実現しません。

もちろん、それまで、婚姻費用として、生活費の請求はできますが、定年退職して嘱託勤務となると、給与が激減してしまい、たいした婚姻費用が取れないことが多々あります。

もちろん、年金も収入になりますが、日本の制度の場合、退職時から、まとまった金額の年金が支払われるようになるまで、数年の間隙が空くことが普通です。この間、婚姻費用の制度をいくら利用してもたいした請求ができません。

相手が離婚に同意せず、長引いた場合には、まとまった財産があるのに、分与として受けられず、婚姻費用も低額になってしまうというジレンマに陥ります。

仲のいい夫婦であれば、退職後年金が始まるまで、退職金などを取り崩しながら、一緒に生活費を埋めていくのが普通なのですから、これを離婚の協議中にも行えるように、財産の一部分与の制度が認められないと、この問題は解決しません。

今のところの対策としては、いくらかでも、仕事で稼げるようになっておくことと、自分の自由になるまとまったお金(離婚闘争の軍資金となります)を速くから作っておくことが肝要です。

4. 離婚を進めるために王道を進むこと

離婚の手続きはもちろん、当事者の話し合いですすめることがスタートです。しかし、長年、向き合ってこず、話をしたこともなく、ましていつも上から目線で、命令されていた相手と穏当に話し合いができる方が奇跡です。

離婚を進めたいなら、弁護士に依頼して、調停、訴訟と、堂々と王道を歩むことをお勧めします。

よく、「裁判なんて泥沼になって、長くかかると言うけれど…」と言う声を聞きますが、既に気が遠くなるような年月を無為に過ごしてきたのですから、ここ一番、多少時間がかかっても、くじけず王道を歩むべきです。

それに、こちらが毅然とした態度で、法的に正面から切り込んでいけば、相手もほとんどどこかであきらめてきます。あきらめずに堂々と判決をもらえば良いのです。

私の経験から言えば、早くに迷わず王道を歩んだ事案の方が総じて早期に解決を迎えています

5. 財産分与の複雑さへの対策

熟年離婚の大きな問題の1つが、この財産分与です。

しかし、長年一緒にいたからこそ、分けるべき財産があるのです。どんなに複雑でも、分ける財産があるだけましと思って、がんばりましょう。

まずは、事が起こって、夫が警戒していろいろな財産資料を隠してしまう前に、こまめに写メを取ったり、コピーを取ったりして、どんな財産がどこにあるか、確認しておきましょう

銀行の取引履歴は10年経つと取り寄せができなくなります。結婚してからの全ての通帳を取っておいてあるなら格別ですが、普通はそういう人はまれです。気になった時点で、全ての通帳の取引履歴を取っておくようにしましょう。

ただ、これは自分の名義のものしかできません。夫の財産の形成については、日頃から、マメにチェックを入れていないとヒントが入手できません。少しづつでもいいので、資料を入手できるように気をつけましょう。

6 まとめ

結局、熟年離婚と言っても、決断をしたら、そこから先、通常の離婚と変わるところはありません。人はいつでも、いくつになっても、何度でも人生をやり直すことができます。信じて進んでください。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

弁護士の無料相談実施中!

当サイトの記事をお読み頂いても問題が解決しない場合には弁護士にご相談頂いた方がよい可能性があります。

ご相談は無料ですのでお気軽に弁護士法人DREAMまでお問い合わせください。

03-5577-2844

メール問い合わせ